神々が降り立った地、高千穂

宮崎県の北端、深い山々に抱かれた高千穂は、天孫降臨の伝説が残る神話の里だ。 阿蘇の火山活動が生んだ溶岩を、五ヶ瀬川が気の遠くなるような歳月をかけて削り出した「高千穂峡」。 柱を束ねたような断崖が屏風のように連なり、その底をエメラルドグリーンの水が静かに満たしている。 名瀑「真名井の滝」が緑の水面へと白い帯を落とす様は、この世のものとは思えない神秘的な美しさだ。 手漕ぎボートを進めれば、頭上から降り注ぐ滝のしぶきと、岩肌を伝うひんやりとした空気に包まれ、まるで神々の庭に迷い込んだような静寂を味わえる。 そして夜が訪れれば、高千穂神社の神楽殿で「夜神楽」が奉納される。 天岩戸に隠れた天照大神を再び世に招こうと舞われた、その所作を今に伝える神事だ。 太鼓と笛の音、面をつけた舞い手の動きが、見る者の魂を遠い神代へと誘う。

Mystical Takachiho Gorge with boat and waterfall
真名井の滝へボートを漕ぎ出す。光と水が織りなす、神話の入り口。

太陽とフェニックスの海岸線

高千穂の森を抜けて南へ下れば、世界は一変する。 宮崎平野に広がるのは、どこまでも明るい南国の光だ。 飛行機を降りた瞬間から、頬を撫でる風はやわらかく、空の青はひときわ濃い。 日南海岸沿いには背の高いフェニックス(ヤシ科の街路樹)が整然と並び、その向こうに紺碧の太平洋が果てしなく広がる。 カリフォルニアやハワイを思わせる、開放感に満ちたシーサイドドライブのはじまりだ。 道の途中に浮かぶ青島は、島全体が青島神社の境内となっている。 島を取り巻くのは「鬼の洗濯板」と呼ばれる波状の岩棚。 規則正しく並ぶ岩の畝は、長い時間が刻んだ自然の彫刻であり、潮が引くとその全貌を現す。 ここは、太陽神・天照大神の孫であるニニギノミコトの物語が息づく地でもあり、南国の華やぎと神話の重みが不思議に同居している。

Tropical drive along Nichinan Coast
青い海とフェニックスの並木。日本のひなたを走り抜ける、南国の休日。

断崖の洞窟に鎮座する、鵜戸神宮

日南海岸をさらに南へたどると、荒波の打ち寄せる断崖の中腹に、鵜戸神宮が姿を現す。 朱塗りの本殿が、なんと海に面した巨大な洞窟の中にすっぽりと収まっているのだ。 参道は崖をくぐり、岩壁に沿って下りていく。 たどり着いた洞窟の薄暗がりと、外で砕け散る白波のまばゆさが、強烈な対比を見せる。 願いを込めた「運玉」を投げて運試しをする習わしも親しまれているが、何よりこの場所の魅力は、波音と神聖な静けさが分かちがたく溶け合った独特の空気感にある。 洞窟の奥から鳥居越しに望む太平洋の荒波は、人を超えた自然の力への畏敬を呼び起こす。 神話と自然がひとつになった、宮崎ならではのパワースポットである。

Vermilion Udo Shrine inside a cave
洞窟に抱かれた朱の本殿。寄せては返す波音とともに、神話に耳を澄ます。

歴史が薫る城下町と、南国の祈り

海岸線のドライブから少し内陸へ入れば、宮崎にはもうひとつの顔が待っている。 日南市の飫肥は、飫肥藩伊東家の城下町として栄えた地で、白壁の武家屋敷や石垣、よく手入れされた庭が、往時のたたずまいを今に残している。 碁盤の目状に整えられた小径を歩けば、時の流れがふいにゆるやかになるのを感じるだろう。 魚のすり身を揚げた名物「飫肥天」や、だしをたっぷり含んだ甘く上品な「厚焼き玉子」も、この町ならではの味わいだ。 かつて飫肥杉の産地として栄え、港町・油津とともに林業と海運で潤った歴史が、堂々とした門構えや石垣の随所に刻まれている。 一方、海沿いの丘に立つサンメッセ日南には、太平洋を見晴らす丘陵に七体のモアイ像が並ぶ。 イースター島の長老会の正式な許可を得て復刻されたという像は、青い海と空を背に、どこかおおらかな表情で南国の風を受けている。 夕暮れには像のシルエットが茜色の空に浮かび上がり、はるか彼方の南太平洋へと想像をかきたてる。 神話の渓谷、断崖の社、城下の小径、そして異国情緒の丘。 宮崎は、ひとつの県の中にいくつもの物語を惜しげもなく抱え込んでいる。

四季がめぐる、ひなたの楽しみ方

温暖な宮崎は、一年を通じて旅人を迎えてくれる。 春、高千穂峡は若葉に覆われ、渓谷の水はいっそう澄んでいく。 宮崎市のフローランテ宮崎をはじめ、平野部は色とりどりの花であふれ、南国の春は明るく華やかだ。 夏は宮崎が最も宮崎らしくなる季節。 青島のビーチに陽光が降り注ぎ、海はきらめき、果樹園では「太陽のしずく」と称される完熟マンゴーが旬を迎える。 秋になると渓谷の木々が赤や黄に染まり、神話の里は静かな彩りに包まれる。 波のコンディションも安定し、お倉ヶ浜をはじめとする海岸にはサーファーが集う、まさにサーフシティの本領が発揮される時期だ。 そして冬。 他県が雪に閉ざされても、宮崎の空はおおむね晴れ渡り、おだやかな陽だまりが続く。 この恵まれた気候を求めて、プロ野球やサッカーの強豪チームが春季キャンプに訪れることでも知られ、冬の宮崎にはスポーツの熱気が漂う。 寒い季節の食卓には、すり鉢で香ばしく仕上げた味噌を冷たい汁にといた郷土料理「冷や汁」が恋しくなり、温暖な土地ならではの食の知恵を感じさせる。 どの季節に訪れても、この地は「日本のひなた」の名にふさわしい、やわらかな光で旅人を迎えてくれる。

神話と海をめぐる、宮崎の旅程

宮崎の魅力を味わい尽くすなら、北の山と南の海、二つの世界をつなぐ旅をおすすめしたい。 一日目は、まず宮崎市から日南海岸を南へ。 フェニックスの並木道をドライブしながら青島神社に立ち寄り、鬼の洗濯板を歩く。 さらに南下して鵜戸神宮で波音に耳を傾け、サンメッセ日南のモアイ像を眺めたら、城下町・飫肥の小径を散策して一日を締めくくる。 夜は、とろける宮崎牛や甘酢のきいたチキン南蛮、炭火で香ばしく仕上げた地鶏のもも焼きを心ゆくまで。 二日目は、一転して北の高千穂へと山道を分け入る。 高千穂峡でボートを漕ぎ、真名井の滝を間近に仰ぎ、天岩戸神社で神話の舞台に思いを馳せる。 旅の最後は夜神楽の調べに身をゆだね、太古の祈りとともに宮崎の夜を見送りたい。 時間に余裕があれば、海岸沿いのカフェで南国の果実を味わい、地元の人々のおおらかな笑顔に触れてほしい。 海の光と森の静寂、そのどちらをも抱きしめて帰る——それが、ひなたの国・宮崎の旅である。